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段取り替えは二時間から三時間かかるのが当たり前でできるかできないかではなく、必要か必要でないかで「狙い目」が決められて、その常識はずれの目標を実現できた、という事実がその後に一種の神話となり、「まずはやってみよう」と語り継がれていることの意味は大きい。 ここからKの言う「演鐸法」によるコンセプト展開の改善活動が起きあった。
この三分間で段取り替えをするという「ありたい姿」のイメージは、段取り替え時間をできるだけ少なくしよう、という目標とはまったく性格の違うものだという理解が大切である。 このような「ありたい姿」を明確にイメージする際に必要なのは、できるかできないかではなくて、「その必要があるか」という発想である。
できるかできないかという発想では、現在の延長線上の解決策しか考えられない。 これでは新しいアイデアを生み出すエネルギーは生まれてこない。
つまり、段取り替えを「できるだけ短くする」ことを目標にすると、当然のことながら、できるかできないかという発想の延長線上で議論が進んでいくわけである。 そのなかでは、現在持っている知識・技能をベースに問題点をつぶすという作業しか行われないことになってしまう。
これがKの言う「帰納法」的改善のアプローチである。 もちろん、このような過去の経験だけで「まずはやってみよう」という姿勢をつくり上げてきたわけではない。

TおよびTグループでは、仕事に対する前向きの姿勢を多くの人が共有しやすい条件が、いくつもそろっているからである。 まず高い目標にチャレンジすること自体が評価の対象となっている。
今日の生産だけに取り組んでまず第一に、説明に行ったら話を非常に熱心に聞いてくれる。 次にそれについてかなり突っ込んだ質問というか、意見というか、もっとこうしたらどうなんだ、とかこうすればもっといいと思うけどできるか、などという提案をしてくる。
いるのでは高い評価にならない。 加えて、目標を達成することもさることながら、そのプロセスが大切にされ評価されるという事実である。
つまり、目標達成一○○%であることが必ずしも要求されない。 それよりもさらに高い目標を持つことのほうが優先されるのである。
もちろん、「まずはやってみよう」というのは最も典型的なT的特徴ではあっても、すべてではない。 Sが見るところでは、Tの人間が共通に持つ、その他のいくつかの特徴がある。
たまたまつい最近の話なのだが、ある部品会社二社がTと取引のおつき合いを始めた。 まったく違う業種の二社である。
両社とも今まで他の自動車メーカーには製品を納めていたのだが、Tとのおつき合いの経験はなく、以前からTとも取引したいということでアプローチを続けていた。 やっと具体的な折衝ができるところまでこぎ着けたのだが、その過程で初めてTの人たちと膝詰めで話し合った部品メーカーのトップや部長クラスの人が異口同音に、Tの人たちと接すると他社とはまったく違う。
人種が違うほど違う、という経験をそれぞれ驚きをもって話してくれた。 いったい何がどう違うのか。
それぞれに特徴を聞いてみると、偶然にも次の三つの点で彼らの意見は一致していた。 他社の場合は真剣に話を持ち込んでも「聞いてやる」という態度で接して、話し終えたら「わかりました」で意見らしいものを言うでもない。

それで「どうぞお帰りください」というのが普通であ今までならば、このような話は単に三河の田舎の固有の企業文化として説明されていたのだろう。 しかし、一見泥臭そうに見えるこの人との接し方や態度は、多くの日本の企業にはあるようでいてないのが実態である。
そしてこれは、世界が一つの市場になって変化していく今という時代には、一緒に知恵を生み出していくために不可欠の能力である。 知らず知らずに人を「よし、やろう」という気が共通している。
三つ目は、星と激励をする。 ニ社はまったく違う業種なので、接触したのはTの別々の部門である。
もう一つ、提案が工場の話だったときは「じゃあ、その工場を見せてください」と本当に見にきた。 持ち込んだ話で実際に工場を見にくる、というのは今までどこにもなかった、ということである。
話がまとまるかまとまらないかは別にして最後に必ず「これはいいテーマに取り組んでいるのだからきっちりものにしなさいよ」出てきている。 ほぼこの七つに代表されるような姿勢で、Tらしさを持った人間が行動しているのは事実である。
たしかにTの人間はその多くが前向きだ。 どのように前向きなのか、を整理してみると、まず、「相手の話をよく聞く」習慣である。
現場・現物を大切にする、という姿勢が、口で唱えるだけでなく隅々まで徹底しているから、人の話を聞くという姿勢も持てるのだろう。 の社内ではよく言われる。
必ずしもいつもやっているとは言わないが、ポイント、ポイントではやっぱりやっている。 にさせる、「やる以上は本気で取り組まなければだめだ」という気持ちにさせる、という前向きに巻き込んでいく力をTの人間は持っているようである。

一九七○年代の後半、TがTグループの協力会社にT生産方式を導入するプロジェクトを実行していたとき、Kもその推進事務局のメンバーの一人であった。 当然のことだが、うまく導入が進む企業と、なかなかうまく展開していかない企業がある。
あるとき推進メンバー数名で雑談をしているなかで、「なぜうまく展開できるところとできないところがあるのだろう」ということが話題になった。 そのときの結論は「展開がスムーズにいく企業には必ず経営マインドを持った人物が存在するね」ということであった。
ここで言う経営マインドを持った人物とは、どんな人間なのだろうか。 「経営マインドを持つ」人とは、いつも「どうしたら勝てるか」「どうすれば儲かるか」を考え、Kは、O氏から、次のような話を聞かされたことがある。
「明日の準備」への活動をしている人のことである。 今よりも「より良いものにしていく」というのが普通の会社でなされている改善だ。
Tに経営マインドを持った人間が多いというのは、「それをやって競争に勝てるのか」と口にする管理者や監督者がたくさんいる、ということである。 たしかに勝ち負けしか考えない経営は薄っぺらだ。
しかし、経営は「勝つ」ことから出発する、というのもまた事実である。 そして、外よりも内に目が向いたサラリーマンは「勝つ」ことをそれほど意識してはいない。
通常のサラリーマンはリスクに対して消極的である。 やるリスクとやらないリスクを天秤に掛けると、普通のサラリーマンはやらないリスクをとる。
そうは言っても、本当に仕事のできるサラリーマンというのは、それなりのリスクに対してチャレンジはしているものだ。 ただ、そんな仕事のできるサラリーマンであっても、物事の判断基準は「今日の業績」レベルであるのが普通の会社だ。

「どうしたら勝てるか」を判断基準にすると、「明日の準備」のための非常に高いレベルの「ありたい姿」に向かって仕事をすることになるからだ。 経営マインドを持つというのはいつも「これで競争に勝てるのか」を考えていることであり、そこから導き出される「ありたい姿」に対して、少々のリスクがあってもなんとかしてしまおうという姿勢を持っている、ということである。

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